大判例

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大阪高等裁判所 平成11年(ネ)1632号 判決

兵庫県宝塚市〈以下省略〉

控訴人

X1

兵庫県宝塚市〈以下省略〉

控訴人

X2

兵庫県西宮市〈以下省略〉

控訴人

X3

兵庫県西宮市〈以下省略〉

控訴人

X4

兵庫県宝塚市〈以下省略〉

控訴人

X5

兵庫県宝塚市〈以下省略〉

控訴人

X6

右法定代理人親権者父

X1

右法定代理人親権者母

X2

控訴人ら訴訟代理人弁護士

井口博

関根幹雄

東京都千代田区〈以下省略〉

被控訴人

株式会社大和證券グループ本社(旧商号 大和證券株式会社)

右代表者代表取締役

福岡県北九州市〈以下省略〉

被控訴人

Y1

被控訴人ら訴訟代理人弁護士

阿部幸孝

主文

一  原判決中、控訴人X1に関する部分を次のとおり変更する。

1  被控訴人らは、各自、控訴人X1に対し、金二三九万五四〇六円及びこれに対する平成四年五月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人X1のその余の請求を棄却する。

二  控訴人X2、同X3、同X4、同X5、同X6の控訴を棄却する。

三  控訴人X1と被控訴人らとの間においては、訴訟費用は第一、二審を通じてこれを四分し、その三を同控訴人の負担とし、その余を被控訴人らの負担とし、その余の控訴人らと被控訴人らとの間においては、控訴費用はその余の控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  (主位的請求)

被控訴人らは、各自、控訴人X1に対し一〇六五万二〇五一円、控訴人X2に対し一八二万一九三三円、控訴人X3に対し一八六万〇六四八円、控訴人X4に対し二六〇万四五四四円、控訴人X5に対し四〇三万一六四八円、控訴人X6に対し二九八万一七七一円及び控訴人らに対し右各金員に対する平成四年五月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(予備的請求)

被控訴人らは、各自、控訴人X1に対し一二八二万三〇二〇円、控訴人X2に対し四二八万八九八一円、控訴人X3に対し六九万五五六九円、控訴人X4に対し七五万〇一八七円、控訴人X5に対し二〇四万六五三二円、控訴人X6に対し一三四万〇九七五円及び控訴人らに対し右各金員に対する平成二年三月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は、控訴人らの負担とする。

第二当事者の主張

原判決記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決四丁裏末行の「金利」の前に「四年間分の」を加え、七丁表四行目の「昭和六二年七月以降に」を「昭和六二年七月以降の全期間について」と改め、一〇丁裏につき、一行目の「翌日には」の次に「顧客に」を加え、六行目から七行目にかけての「送付するなどしており、原告らが所有する商品の変化を知るようにしており」を「送付するなどして、控訴人らがその所有する商品の残高の変動等を知ることができるようにしており」と改める。)。

一  当審で付加された控訴人の主張

(説明義務違反)

控訴人X1の取引のうちワラント取引(平成二年六月六日付買付上組2WR一二万五〇〇〇ドル・金五四四万五九九三円)については、被控訴人Y1に説明義務違反があった。

被控訴人Y1は、右ワラントについても無断売買をしており、控訴人X1は全く説明を受けなかった。控訴人X1が右ワラント取引についての確認書に署名、押印を拒否したことは被控訴人Y1も認めており、右事実は無断売買と説明義務違反を裏付ける重要な事実である。

被控訴人Y1は、平成二年三月二八日以降は転換社債を中心として勧めたと言いながら、ワラントという極めてハイリスク・ハイリターンの商品(しかも五四四万五九九三円という極めて高額なもの)を購入している。控訴人X1は被控訴人Y1からワラントの危険性について全く説明を受けていない。この点について、被控訴人Y1は「期間が過ぎれば価値がなくなるという話をした記憶はない」と供述して、ワラントの危険性のうちの最も重要な事実について説明をしていないことを自認しているのであるから、説明義務違反は明かである。

二  被控訴人らの反論

1  ワラントの説明義務について

証券取引は本来的に危険を伴う経済活動であり、控訴人らも、証券取引に伴う危険性を十分に認識したうえで、証券取引による利益獲得を目的として証券取引に参画したのである。それ故に控訴人らに対しても自己責任の原則が適用されるのであり、そのことはワラント取引においても同様である。

控訴人X1は、平成二年六月一日、上組ワラント一二万五〇〇〇ドル分を金五四四万五九九三円で購入したもので、その購入代金は同日付で売却した日本セメント、栗本鐵工所、三菱電機の各転換社債の売却代金をもって充当した。そして、被控訴人Y1は、控訴人X1に対して、右上組ワラントを紹介するに際して、次のような内容について説明した。

(1) ワラントとは、新株引受権を購入するものであること。

(2) ワラントの価格は、株式の価格の上下の変化に影響して動き、株式の価格以上に上下の変化をすること。

(3) その当時の上組の株価の状況。

被控訴人会社としては、被控訴人Y1からワラントについて右のような内容を説明し、控訴人X1の了承を得て、上組ワラントの購入を受けたものであるが、被控訴人会社は、被控訴人Y1の右説明の外に、管理係から控訴人X1に対してワラントに関する取引報告書、外国新株引受権(外貨建ワラント)取引説明書、確認書、預り証などの書面を送付して、控訴人X1に対し、購入したワラントの内容を理解、認識できるように努めているのである。

以上のように、本件上組ワラントの取引に際して、被控訴人会社は、控訴人X1に対し、被控訴人Y1の口頭による説明の外に、管理係からワラントの説明書その他各種の書類を送付して、控訴人X1にワラントについて説明しているのであり、被控訴人会社に説明不足があったとはいえない。

2  控訴人X1の落ち度

控訴人X1は、証券取引に関して深い知識と経験を有しており、ワラントについても知識をもって取引をしていた。仮に控訴人X1にワラントに関する知識がなかったとしても、被控訴人らから前記の如き説明と書類送付がなされたのであるから、控訴人X1としても質問や問い合わせなどをして、ワラントについて理解を深める努力をすべきであり、それらの努力を欠いた責任を被控訴人らに転嫁することは許されない。

第三証拠

本件記録中の証拠関係目録記載のとおりである。

第四判断

一  当裁判所も、無断売買を原因とする控訴人らの請求はいずれも理由がなく、これを棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり訂正するほか、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  一一丁裏八行目の「未成年」の前に「控訴人X6は」を加える。

2  一四丁裏六行目の「別紙取引表」の次に「(なお、同表に記載の年月日は受渡日〔入出金日〕である。)」を加える。

3  一五丁表につき、五行目の「同時に」を「被控訴人Y1が」と、七行目の「Y1は電話で」を「Y1の電話は」と各改め、八行目の「思ったが、」の次に「初めのころは」を加える。

4  一七丁裏につき、八行目の末尾に「なお、平成二年三月二三日(約定日)にステップが一〇〇〇万円で売却され、同月二八日に同額の出金が現金でなされたことについては、控訴人X1についての顧客勘定元帳(乙一)にこれに符合する記載がある。」を、末行の「四月二〇日」の次に「(受渡日〔入出金日〕。以下同じ)」を各加える。

5  一七丁裏一〇行目、一八丁表四行目、六行目から七行目にかけて及び九行目の各「グローバル、エスキャップファンド」を各「グローバルSCAPファンド」と改める。

6  一八丁裏四行目の「その後も」を「平成二年三月二八日以降」と改める。

7  一九丁表三行目の「争いがないところ、」の次に「右事実によると、」を加える。

8  一九丁裏五行目の「平成二年一〇月下旬」を「平成四年四月」と改める。

二  当審における新主張(説明義務違反)について

控訴人X1は、当審において、ワラント取引につき被控訴人らの説明義務違反を主張するので、以下検討する。

証拠(甲一二、一四、乙一、七、四五、四六の1ないし3、四七、控訴人X1、被控訴人Y1)及び弁論の全趣旨によれば、大略、次の事実が認められる。

1  控訴人X1は、被控訴人Y1の勧めで、平成二年六月一日、上組ワラント一二万五〇〇〇ドル分を金五四四万五九九三円で購入したが、その購入代金は同日付で売却した日本セメント、栗本鐵工所、三菱電機の各転換社債の売却代金をもって充当した。

2  被控訴人Y1は、控訴人X1に対し、上組ワラントを紹介するにあたって、電話で、次のような内容について説明しているが、その際、ワラントは権利行使期間が過ぎれば価値がなくなる事実についての説明はしていない。

(一) ワラントとは、新株引受権を購入するものであること。

(二) ワラントの価格は、株式の価格の上下の変化に影響して動き、株式の価格以上に上下の変化をすること。

(三) その当時の上組の株価の状況。

3  被控訴人会社は、被控訴人Y1からワラントについて右2のような内容を説明し、控訴人X1の了承を得て、上組ワラントの購入申込みを受けたものであるが、被控訴人Y1の右説明の外に、控訴人X1に対して、ワラントに関する取引報告書、外国新株引受権(外貨建ワラント)取引説明書、預り証などの書面を送付した。

4  被控訴人Y1は、同年八月ころ、控訴人X1方を訪れ、ワラント取引に関する確認書への署名、捺印を求めた(本来、取引の時点において提出させるべきものであったが、それが履行されておらず、被控訴人会社豊中支店の支店長の異動があった際に、漏れていた顧客について新支店長が追完を指示した。)が、同控訴人は、被控訴人から送付されたワラントについての説明書の内容が自分が聞いたものと異なっており納得できない旨述べて、右確認書への署名、捺印を拒否した。

本件ワラントは、控訴人X1の指示に従って、平成四年四月二〇日に八万二四七七円で売却されたが、控訴人X1はその代金の受領を拒否した。

引用にかかる原判決認定事実及び右に認定したところを総合して検討するに、被控訴人会社の使用人である被控訴人Y1は、被控訴人会社の業務の執行として控訴人X1に対して本件ワラント取引の勧誘をするにあたって、控訴人X1の職業、年齢、証券取引に対する知識、経験等に照らして、本件ワラント取引による利益やリスクに関する的確な情報の提供や説明を行い、控訴人X1がこれについての正しい理解を形成した上で、その自主的な判断に基づいて本件ワラント取引を行うか否かを決することができるように配慮すべき信義則上の義務(説明義務)があったところ、ワラントがその権利行使期間内に売却するか新株引受権を行使しないと無価値となることは、ワラントの危険性のうちで最も重要な事実であるから、被控訴人Y1が控訴人X1にワラント取引を勧めるに当たって右の点の説明をしなかったことは重大であり、同被控訴人には右説明義務の違反があったといわざるを得ない。

したがって、被控訴人Y1の右行為は不法行為を構成するものであり、同被控訴人は民法七〇九条により、被控訴人会社は、民法七一五条により、それぞれ控訴人X1に対する損害賠償責任を免れない。

三  控訴人X1の損害について

1  (損害)

前記認定の事実によれば、控訴人X1は、被控訴人らの右不法行為により、本件ワラントの購入価格相当額とその売却代金相当額との差額である五三六万三五一六円の損害を被ったものと認めるべきである。

2  (過失相殺)

一方、控訴人X1は、各種証券取引の経験を有していたのであるから、被控訴人Y1からワラント取引の勧誘を受けた際、納得できない点などがあれば同被控訴人に問いただすなどして、ワラント取引についての理解を深めたうえでワラント取引をするかどうかを決めるべきであったのに、同被控訴人の勧誘に安易に応じて本件ワラントを購入したものであるし、その後においても、被控訴人会社から送付を受けた説明書を熟読したり被控訴人Y1に疑問点を尋ねることもなく、自己の取引全体を同被控訴人に任せきりに近い状態にしていて、本件ワラントを前記のような安価で売却せざるを得なかったのであるから、控訴人X1が前記の損害を受けたことについて同控訴人にも過失があったことが明らかであり、本件に顕れた諸般の事情を総合すると、前記の損害額からその六割を控除した残額を被控訴人らに賠償させるのが相当である。

そうすると、右過失相殺後の控訴人X1が被控訴人らに請求できる金額は二一四万五四〇六円(円未満切捨)となる

3  (弁護士費用)

本件訴訟遂行の難易等諸般の事情を考慮すれば、右不法行為と相当因果関係のある弁護士費用としては、二五万円が相当である。

4  したがって、控訴人X1が被控訴人らに対して請求できる金額は合計二三九万五四〇六円となる。

四  結論

以上のとおりであるから、控訴人X1の請求は、不法行為に基づく損害賠償として二三九万五四〇六円及びこれに対する不法行為の後の日である平成四年五月一四日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度でこれを認容してその余は理由がないとして棄却すべきであり、その余の控訴人らの控訴は理由がなく棄却を免れない。

したがって、控訴人X1について右と異なる原判決を変更し、その余の控訴人らの控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 妹尾圭策 裁判官 渡邊雅文 裁判官 宮本初美)

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